「普通」の構法のひとつとしての木造 KADEN + LAGER
こんにちは。ドイツの首都ベルリンに留学中の大内です。
ベルリンにも待望の夏がやってまいりました。嬉しい!
街中にテラス席が大量に出現し、海は無いのに人工のビーチが現れました。
私も最近帰り道に外のベンチで読書をするのがこの上ない幸せであります。
ただ、ドイツには冷房設備がほぼない。
暑がりの私としては待望の夏に予想外の落とし穴、、、窓を開けてがんばる所存です。
第三回は マイ フェイバリット アーキテクト ということで。
ベルリン工科大学で学んだ大御所といえばヴァルター・グロピウス、ハンス・シャロウン、フライ・オットー、ブルーノ・タウト、エーリヒ・メンデルゾーン、アルベルト・シュペーアなどなどが思い浮かびますが(中退含め)、選べっこないので、
今回は私が今お世話になっている建築設計事務所を紹介させていただきます。
ドイツ国内を中心に活躍しているユニットです。
K A D E N + L A G E R
kadenundlager.de
e3_kadenundlagerHP 当時ヨーロッパ初の都市部における木造7階建て
e3_kadenundlagerHP 外壁厚は基本250mmに断熱材150mm
ご存知ない方はa+u551の176頁をみて頂ければなんとなくわかるかもしれません。
当時ヨーロッパで初めて、「都市部における木造7階建て」を実現させた ”e3” というプロジェクト。
この作品で有名になった事務所ですが、まだまだ日本では無名だと思うので、この記事をきっかけに知って頂けると嬉しいです。
Kaden+Lager_kadenundlagerHP 左がTom右がMarkus
ボスは二人。Tom KadenとMarkus Lager
二人の性格が対照的で本当にいいコンビ。
TomはおちゃめでMarkusはクール、年齢は10歳位離れていますが時たま逆転しています。
シェイブドヘッドにオールブラックがスタイルのTomは木を扱ってその道25年、
現23歳の私が母のお腹にいる前から都市木造を試みているということ。
本当は上記の作品をつくった当時は Kaden Klingbeil Architekten という名で、
Tom KadenとTom KlingbeilのTom.Kコンビだったのですが、数年前に解消、
今二人は別々のパートナーと活動しています。
Klingbeilはe3に事務所を構え、Kadenのオフィスの一つがc13という別のプロジェクトの一室に入っています。
私はこのc13に大学の授業と並行して週4日通う日々。所員はAlexanderplatzのもうひとつのオフィスと合わせて25人くらい。
c13_kadenundlagerHP 私が通っているオフィス
c13_kadenundlagerHP 外壁厚は基本250mmに断熱材150mm
c13_kadenundlagerHP 内装仕上げ前
蓋を開けると本当に木でできているからびっくり。
昨今、日本でも木造が再び注目されていますが架構を現して視覚的にインパクトのある作品がメジャーであります。
対してこの事務所の場合は外から見たら木造かわからない。隣の建物と対して変わりません。
なぜセッカクの木を外装材で完全に覆ってしまうのか。Tomはこう答えています。(URL後述)
The material wood does not appear on the outer facade, since in this urban construction context a slowly weathering wood facade would have been an absolute foreign body.
Wood is therefore primarily used as construction and insulation material with the best building physics and excellent energy balance.
まず純粋に防火のためです。それから景観配慮のため。経年変化を”an absolute foreign body”と捉えているのが面白い。
ドイツの法規では、特別な許可がない限り5階建てまでという制限があるそう。建築法規は国ごとに異なりますが、なかでもドイツは第二次世界大戦で焼け野原を経験しているので防火に関する法規が特に厳しい。だからプラスターボードで覆わなければクリアできないのです。
しかし、木造にもアドバンテージがあって、それは耐火時間が鉄骨造より圧倒的に長いこと。Blankenfeldeに木造の消防署 ”rtwb” をつくっちゃったくらいなので。「消防士ならみんな知ってるぜ。」とのこと。
タイトルで「普通」の構法のひとつとしての木造と書いたのはこれらが理由です。
外観に現さない現せない現れない木造。
今回は、現代の潮流と逆のことを今現役で追求している事務所に関するレポートです。
実は留学先をここベルリンにしたのも、この事務所にとても興味があったから。
この事務所を知ったきっかけは正確には覚えていませんが、論文の研究で資料を漁っている時だったように思います。少なくとも、これが木造なの?!と衝撃を受けたのは覚えています。
そんなこんなで期待に胸を膨らませベルリンにやってきて少し経った昨年11月中旬、ドイツの木造建築事務所が集うシンポジウムに参加しました。その際申し込めばe3の内部を見学できるというチャンスが舞い込んできて。Klingbeilの方のTomが詳しく説明をしてくれて、建設時のビデオを見せてくれました。が、
全てドイツ語だったので当時ほぼ理解できませんでした、とても悔しかった。今でもオフィス内はみんなドイツ語です。私とは英語で会話をしてくれますが、彼らの会話を完全には理解できない苦しみと、自分の言語認識の甘さに猛反省しています。毎日がリスニングテスト。だから、これから留学するかたは英語だけに留めないで現地の言語までしっかり勉強してから来たほうが良いです。。とだけせめて。。
面白かったのは、見学者のなかで学生は私ひとりだけ。他はおじさまおばさまで、建築関係ではないという方も多数いらっしゃいました。「面白そうだったから来てみたのよ~」なんておばさまがお話してくださいました。それからよく高校生が授業の一環でオフィスに見学に来たりもします。
建築を学んでいるいないに関わらず誰もが興味を持って参加している状況に感動する場面が多々あります。
なぜ木造なのか。
”architectural lighthouses”
”It reflects our body heat.”
木は生き物です。工学的に一様に処理できない個体差がある。燃えるし腐る。課題は沢山ある。
でもCO2を保持し環境的に優しいうえに、何より体験としての癒やし効果は侮れないものがあると思います。
加えてプレファブリケーションによって工期が圧倒的に短くなるという利点がある。
つまり伸び代が多分にあるということです。
ただ、しっかり伝えておきたいのは、純木造に拘っているわけでは決してないということ。
”I am not an ideologist.”
混構造のほうが上手くいく場合はそれを積極的に受け入れる。木というマテリアルのポテンシャルを追求することを楽しみたい。そういうスタンスです。
特に、一番大事な課題で先ほども触れた防火対策を考えたら、コンクリート無しではまず不可能です。ヨーロッパの都心部における街区構成は基本隣家と直に接して成立しているため、万が一火事になってしまったら延焼は容易です。従って、隣家との境界にはコンクリートの耐火壁が必要です。それから建物内部にもRCの防火区画があって避難経路をしっかり確保します。
全て木だけで出来ているわけではないよって。
c13 光庭。左が耐火壁、正面が託児所、右がオフィス。
c13は雑居ビルです。地上階にはカフェ(未開店)とレクチャーホール、上層階は集合住宅、その他は託児所です。
なので毎日赤ちゃんの泣き声をバックに作業する日々です。たまにトイレに行くと小さな女の子が出てきたりします。今日は子どもたちが先生のピアノに合わせて大きな声で合唱していました。
オフィスは光庭に面していて風も通るし光も入るし気持ち良いのですが、託児所の一室と共有。さすがに赤ちゃんは出てきませんが、オフィスと託児所がこんなにも近くで共存していることに驚きました。うるさくて集中できないということは何故か無く、平和だから上手くできています。
内装も家具も木質なので、子どもを育てる託児所というプログラムを入れることは最適かと思います。
c13 このサイズの掃き出し窓でも内倒し
話は逸れますが、こちらに来て開口部の開き方に驚くことがよくあります。
普通のカフェで日本では耐震的に有り得ない幅2.5mくらいのサイズのガラス窓をスライドさせたり、冬在った窓が夏は格納され無くなって通通だったり。
ドイツは冷房設備がほぼなく自然換気に頼っているため開き具合はとても重要です。
戸は基本内開き。元は外敵が来たときに内側にバリケードを張れるようにするためらしく。
日本は玄関に靴を置くので外開き、公共施設は例外で避難経路を確保するため内開きだったはず。。
こちらは窓も同様内開きで、基本内倒し兼片開きの両刀使いです。
写真のように900×2400くらいの掃き出し窓でも同じようにガバッと内側に倒れてくるから最初はびっくりしました。これ決して壊れているわけではなく正常なのです。
この事務所が挑戦していることは、都市部における木造のhigh-rise。
high-riseといっても5層くらいのことですが、現状は国内で2.5%。郊外の木造低層住宅12-17%の1/6程度です。
まだまだ課題はありますが、都市木造が拡散していって普通の構法のひとつとして受け入れられれば、ベルリンという現代都市において新たな街並みになるかもしれない。
まあきっと増えていっても外から見たら既存の街並みに溶け込んでしまってわからないのでしょう。
このような既存に誠実に、でも大きく可能性を探る試みはとても魅力的だなと思います。
そうした環境に今身を置かせていただけていることに感謝しています。
正直、まだまだ理解していないことが沢山あってどうなるかわかりませんが、
残り数ヶ月、少しでも多く吸収できるように努めたいです。
今回この記事を書くにあたって、ベルリン新聞社によるインタビューがわかりやすく参考になったので載せておきます。
ドイツ語なのでGoogle翻訳等して頂ければと思います。
http://www.berliner-zeitung.de/berlin/holzbau-in-deutschland-architekt-tom-kaden-baut-holz-hochhaeuser-in-berlin-1554096
それでは失礼します。Tschau Tschau!!
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