Pezo von Ellrichshausen 後編
前回は前編として日常と仕事について書いた。後編ではこの事務所Pezo von Ellrichshausenではどのように建築を考えているかについて考えてみたい。
写真については、2015年に行われたアメリカのコロンビア大学でのレクチャーの様子をキャプチャーする。
僕が事務所に来て約7ヶ月で20以上のプロジェクトに触れてきた。半分が住宅を中心とした建築設計の仕事、もう半分はアートプロジェクトだ。こんな事務所は世界でもなかなか少ないと思う。彼らにとっては建築とアートの境界はなく、どちらかが独立しているのではなく、必ずどこかでつながっている。しかも、そのアートワークをインターンが中心となって作業しているのには最初は驚いた。ここからいくつかすでに発表している建築とアート作品をあげる。彼らはいったい何をしようとしているのだろうか。
アートワークの出番はいくつかある。
一つは建築の表現として。日本の建築雑誌、a+uの特集を目にした人もいるかもしれない。そのとき作品の最初のページは油彩で描かれたモノクロのアイソメトリックの断面図で統一されている。
SOLO HOUSE
これは雑誌の出版のためにインターンによって描かれたものだ。完成した建築の表現のために油彩、水彩、アクリル水彩、グラファイト、コラージュ、模型といった様々な手法が表現されている。手法の選択は設計段階によって変えているとインタビューで答えていた。もちろん油彩や水彩は高級なので、いちいち腰を据えて絵を描きながらデザインを検討しているわけではないが、初期段階でもアイデアの骨格が決まっていたら抽象的な油絵も描く。最初の検討段階ではアクリル絵具やグラファイト、photoshop、レンダリング、コラージュが多いという印象だ。中国での巨大建築のように建築家は基本設計図書を作成するところまでが設計だという人もいるし、日本の一部の住宅作家のように現場での変更を組み込んだ完璧な竣工図を作成する人もいる。Pezoの場合は、表現と思考の整理のために言説と同時にアートを使って表現する建築家だといえるだろう。どんな建築家ももちろん最終的な表現をしているが、うちではそこにかなり力を入れている。とりあえず絵を描いておいて、機会があれば本や展覧会などで発表するというスタンスであるかもしれない。いま事務所では今年中に出版される予定のAV(Arquitectura Viva)というスペインの建築雑誌のために建設されなかったプロジェクトの絵を描いている。事務所ではまさに油彩のアクソノメトリックを描いている途中だ。
ドイツにある20組の建築家が招待されているプロジェクトがある。建築家の提案に賛同するクライアントが表れれば着工する、というものだ。(https://www.facebook.com/christophhesse.eu)
Pezoにそういう依頼が多いのかもしれないが、チリのOchoalcubo(http://www.ochoalcubo.cl/)やSolo House Project(http://solo-projects.com/)
と似たような感じだ。ここでGifで流れている我らのプロジェクト写真は僕の書いた絵がある。(ちょっと嬉しい)
日本では設計のプロセスを表現するために模型が使われることが多い。Pezoはよく典型的なイメージとしてはSANAAの模型をあげて、あれと真逆にしたいから黒く塗っちゃおうか、などの冗談をいう。日本での模型の扱われ方はよりプロセスを重視されていて、ここでは一つの模型に込める気持ちが少し強いという感じだろうか。
しかし、スタイロカッターがなかったり、カッターの刃は45度がデフォルト、カッターマットは高いくせに台湾製で傷がつきやすいなど、想像通りのチリ-クオリティの中での模型作りではある。ちなみに写真は専門家に頼まずにPezo自身が撮っていて結構きれいだ。
CIEN HOUSEを描いた油絵はNYのMoMAに飾られているほど技量としても認められている。彼らはよく抽象的な絵を描いている。コンセプトはどれも聞くと面白いのでいつか機会があれば書きたいと思う。
建築を絵で表すということは、現実の空間よりも必ずあるレベルで抽象化しないといけない。特に10年くらい前の初期の作品は、外観はオブジェクトとして全体性を持っている印象から、平面図と写真をよーく眺めて体験した気になると、内部空間は人のために空間がつくられていることがわかると思う。その建築のペリメーターとなる外郭の作り方と内部空間の豊かさの不一致が一つのテーマだったようだ。それはPoli からWolf, Fosk, Gago へと続いていて、それらはオフィスのある街、コンセプシオンで見ることができる。
GAGO HOUSE - SPATIAL STRUCTURE
GAGO HOUSE - PERIMETER WALLS
彼らはデザインとして検討した空間構成を整理して、そしてそれを認識するためにオブジェクトとして見える絵を描いているのだと思う。空間構成については「Spatial Structure」
という本を出版している。チリで買えると思っていたらデンマークの出版会社のためチリでは扱っていないらしくまだ読めていない。1000部しか出版していないため気になる人はお早めに。Bookshop TOTOで買うことができる。
そして、もう一つとして言えるのは、建築を思考する過程で平面立面断面の図面で検討するコンセプトや、アイデア以前の種のようなものをアートとしてシンプルに表現していることだろう。それは大きなキャンバスに油彩で描かれたものや、繰り返し鉛筆でぐりぐり円を描いたものなど、ミニマルアートと呼べるのだろうか、そういったもので建築を説明することがある。事務所では建築の名前よりもアーティストの名前の方が話題に上がる。こういったミニマルアートは二人の趣味に近いのかもしれないと思うくらい、作品として発表しているもの以外にもたくさん作っている。
OFFSET
人の横顔の輪郭線を内側、外側にオフセットして形を抽象化するシリーズ
2015年チェコ共和国で行われたFinite Formatという展覧会がある。 チリカトリカ大学のHPに展覧会の様子が見られる (http://arquitectura.uc.cl/index.php/noticias/1413-finite-format-konecny-format) チリカトリカ大学の出版社ARQから出ている展覧会のカタログ (http://www.edicionesarq.cl/2015/finite-format-002-003/)
"形の理解を、フォーマット(様式、型、構成)に置き換えることで、建物はオブジェクト事態として、そしてこれらのオブジェクトの本質的な概念自体の両方として理解されるのではないかと、私たちは推測している”
これは真意をくみ取るのは少し難解だ。このときは002と003のそれぞれ243枚の油絵を展示している。243という数字は3の5乗から来ているが、3の倍数上で同じフォーマット上で形の大きさを変化させた243枚の絵を壁一面に展示する、というものだ。002と003からわかるように001も004もそれ以降もある。004が243の3倍、243の3倍の729枚の絵が近いうちにシカゴビエンナーレで見られるようにいま準備しているところだ。
Finite Format
Pezoの言葉からはよくFormatという言葉が聞こえる。例えば、一つの建物を説明するときに、Cienだったらタワーとベースのフォーマットを組み合わせた、Guna はプラットフォームとボディウムと言ったように、形としてアイデンティティを持つオブジェクトを組み合わせることを模索している場合がある。もちろん敷地やクライアントなどの条件とともに設計を解いていくのも必要だが、その前に建築を建築自体の問題として考えていきたいという姿勢にはとても共感する。とはいえ、まだ理解が追い付いていない。なぜこのアクソメなのか、なぜこのオブジェクトとしての疑いのない始まり方など、議論したいことはたくさんある。
また、こういったミニマルな絵から建築らしきものが立ち上がっているのがわかると思う。サークルが重なったアイデアは2016年ベネチアビエンナーレのパビリオンとして立ち上がり、いまでもほかのプロジェクトに発展している。
このように、アートから建築を立ち上げる、建築をアートのレベルまで抽象化してみる、といった双方向を横断した考え方が彼らの特徴なのだと思う。コルビュジェがパースをゆがめて表現していたように、メディアとの付き合いかたは現代建築の裏テーマの一つであるが、それをコンセプトを思考するために使っているということがPezoが世界的に注目されているという理由の一つであるかもしれない。チリという土地柄も関係していると前編で述べたが、Pezoはチリ国内では無名と言ってもいいだろう。チリで建物を建てる良さを理解してコンセプシオンという何もない街に事務所を構えているが、目を向ける方向は世界基準。世界から見てラテンアメリカ・チリはどういう見方をされているのか、どんな建物が建てられるのか、ぼんやりとチリを見つめらがら鋭い考えを磨いている。これから建つ建築と描くアートの両方から目が離せない。インターンとして内側に入って見ている経験にとても価値を感じている。
nemo
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