Pezo von Ellrichshausen 前編
日本ではチリ、広くは南米の建築についての情報はほとんどないといっていいだろう。南米といってもとても広く、さまざまな文化のもと建築が生まれているし、オスカーニーマイヤーのようなモダニズム建築の巨匠も生まれている。まだ、ほとんどの南米建築を訪れていないが、帰国のタイミングでは南米を周遊して帰ろうと思うので、そのあとに語った方がいいと思われる。いまはオフィスで働いているのでチリ国内をちょくちょくしか旅行できていない。
今回のテーマはお気に入りの建築家というと幼く聞こえるが、下田くんが言うようにご当地建築家のような人たちを紹介しても面白いだろうし、一つの建築家、または建築作品を分析するのも面白いと思っている。僕の場合、小さな事務所にインターンをしているので、この事務所について(ボスに怒られない程度にオープンに)書けたらなと思う。
・Pezo von Ellrichshausen
事務所の一日は朝9時から始まる。小高い丘の上にあるので、毎日20分くらいひーひー言いながら登っている。海抜から100m程の高さにあるので名を"cien house"(100mの家)と呼ぶ彼らの住居兼オフィスだ。そこから螺旋階段でいっきに3階まで登ったところでオフィスにたどり着く。オフィスは3階、4階を作業スペース、5階をミーティングとボス二人の席としていて、地下2階では3m程の高さの絵が描ける程のスペースがある。お昼はインターンが交代で作ってきて、屋上で食べる。そのあとは犬2匹と散歩に森の中にいく。海が近い町なので丘の上からは海の水平線が見える。こんな環境は日本では信じられないと思うが、この中で働けるだけでも特別な経験になっていると毎日実感している。
Cien House
丘の裏の森に散歩。ゴミがあふれているので時にはゴミ拾いをしながら。
マテ茶の飲み回しはいかにも南米文化
ボスの二人は一年の半分以上を海外で過ごしている。各地でクライアントと打ち合わせや招待されたレクチャーをしたり、展覧会を開催したりしていて、2週間おきに帰ってきている。アメリカのシカゴでは毎年大学でスタジオをもっていて、サンチアゴにあるチリの建築家はみんなここの出身だといえる名門のチリカトリカ大学でもスタジオをもち、短期のワークショップを含めると様々なところで教えている。二人の教育者としての雰囲気もとても好きなところの一つだ。
彼らがいるときはプロジェクトを共有するミーティングを開いてくれるし、ソフィアがよくスコーンを焼いてくれるので休憩がてら彼らの考えも聞ける。これほど世界で活躍する建築家でありながら小さなオフィスでやりくりしていて、インターンと過ごす時間も大切にしてくれている。世界的に有名な大きな事務所にいってもそのボスに会うことは一度もなくインターンが終わってしまったということもあるらしいが、半分いないと言っても、彼らがいるときには得られるものが多いのでとても充実している。
以前、アラスカから訪ねてきた建築家が事務所を見て驚いていた。それは、オフィスの作業スペースに全く物がおかれていないことだ。PCすらない。オフィスなのでもちろんPCも使うし、ドローイングも模型も作るので物はたくさん使う。でも、夕方は6時ころに仕事を終えるころにはすべてクローゼットへしまい、汚したらもちろん掃除をする。よく考えると小学校のときからやってることをただ続けているだけなのかもしれないと、もう当たり前に感じている。いわゆる日本の製図室の延長のような事務所のように机の下で寝て、食べ終えたカップラーメンがおいてある事務所の雰囲気とはかけ離れているだろう。このような健康的な事務所をつくりたいという意向は奥さんのソフィアが強く持っている。しかし、チリならではの建築設計の環境にもよっているだろう。
interior
(http://estudiopalma.cl/casa_cien/19#)
・チリの建設現場、建物が建つ状況
チリでは社会全体がゆっくりなのに雑だ。チリ人がせっかちで短気で楽観的、自分達は南米の中で先に独立して発達したことからのプライドも強いらしいことなどもだんだんわかってきた。せっかち短気楽観的というと、生粋の江戸っ子の自分からするとじいちゃんや町内会の人たちをみているような気になる。建設現場では、最初は楽観的な行程表しか作らない。必ず遅れる、というのが事務所での認識だ。一方で施主もチリ人であるから、そんなに問題でもないのだろう。だから、事務所ではスタッフが常駐して現場指導するということがない。電話で進捗を聞いて、一ヶ月に一回程度チェックしにいくだけだ。逐一チェックしていたら工事も進まないし気が滅入るだけなんだそうだ。そこは日本とは全く違う。
事務所ではディテール設計は着工前に終えて現場では図面では対応していないので、事務所での仕事は建築を考えるときの基本設計が中心になっている。なので、アートワークに近い仕事にも時間がさけているし、所員が一人だけでも事務所が回っているのだ。
サンチアゴで通りかかった現場を見ていたら、なにか叫んで踊っている。いつもこんな調子
修士1年の夏の終わり頃、奥山研究室のなかで住宅のプロジェクトを一から任されるというチャンスをいただいた。東工大では秋からの交換留学を丸一年すると、2年遅れて卒業する人が多い。留学はしたいと思っていたがまだはっきりと決めていなかったので、1年休学して住宅が竣工してからすぐにインターンにしようと思ったのだ。日本でのインターン経験を経てから海外インターンをするということはとてもよかったと思うことが多い。住宅の基本の寸法感やディテールの常識、素材の値段などが何となく頭に入っているので、ここではそれを生かすというよりも、チリで平気でやっているのを日本ではできないな~と認識できることだったりする。日本ではこうですよといっても、アジアは雨多いからねと言われる。そんなもんなのかとも思う。(オフィスでは雨漏りし放題なのは内緒)
初めての建方は複雑な屋根形状のせいでプレカットできず、二日にわたった。
ダイナミックないい写真。
そして学生のうちに建築設計をするための働く環境を二つ間近で体験できたということも大きい。日本では研究室の中で働いているのでもちろん特殊なのだが、週2回の現場打ち合わせ、そのための設計図書の作成や素材や材料のディテール検討など小さな住宅の建設にかかわるほとんどのことが経験できた。それを補うように今の事務所でのインターンでは、建築デザインの要になるような建築理論の模索、建築表現を学ぶことができている。
インターンではただの模型アルバイトのようにこきつかわれるだけだという先輩もいた。大きい事務所ではそうかもしれない。奥山先生にも、留学をすることはいろいろな友達を作って、視野を広げることも大切なことだよと言われた。でも小さい事務所の中に一年間身を投じることを選んだ。もし事務所の雰囲気が合わなかったらと思うと少し賭けにも見えるが、大学へ留学するよりも建築を深く考えることに繋がる気がしている。
今回はインターン先の日常と雰囲気について書いてみた。少し長くなってしまいそうなので、後編へと分けて彼らが模索していることについて、考えながら書いてみたいと思う。
後編へ続く
nemo
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