スタジオ事情−ウィーン編−
こんにちは。オーストリアのウィーンにいる浦山です。
今月のテーマは大学の教育事情とのことで、園さんに続いて、私の通っているウィーン工科大学(TU Wien)のスタジオ事情について書きたいと思います。
ウィーンには建築を学ぼうと思ったら3つ選択肢があります。芸術系のウィーン応用美術大学とウィーン芸術アカデミー、そして工学系のウィーン工科大学です。前述2校は芸術系の名門で、入るのに入学試験がありますが、ウィーン工科大学にはありません。ということがあってか、TUでは建築学生の数がめちゃくちゃ多く、実に全学生数の半分以上を占めるという大所帯。今年マスターを卒業予定の友人が言うには、「学部で入った時同期は800人くらい居たけど、今は200人ちょいかな」とのこと。オーストリア人ならば学費も無料なので、建築家を志す学生を大量に受け入れ、その後大学側が厳しい必修の授業で4,5年かけてふるい落としにかかる、というシステムのようです。
ちなみに、ウィーンの地理上の理由でしょうが、オーストリア人以外でも学費はとても安いので、東欧諸国とトルコからの学生が大量に居ます。見た感じ多いのはブルガリア、クロアチア、ルーマニア、スロベニア、ウクライナ、モンテネグロなど。皆入学前に1,2年かけてドイツ語をマスターし、やってくるようです。「どこ出身?」といちいち聞くのがアホらしくなるほど多国籍の学生と作業をしていると、自分が暮らしてきた世界の狭さと、みんなの想像もつかないほど様々なバックボーンが見え隠れしてなかなかおもしろいです。
ということで、国籍様々な大量の建築学生を受け入れるため、スタジオの数も非常に多く、1セメスターに40個くらい開講されます。学部生向け、修士の学生向け、半々でとるもの、など様々です。これでも学生数に対しては数が少ないので、受け入れてもらえなかったせいで1セメスターや2セメスター棒に振る学生もざらにいるようです。学生数多すぎて、3,4個ある製図室(作業室?)も常に飽和気味。しかも、スタジオの授業登録に関しては原則セメスターが始まる前に希望を出し決定する仕組みになっているので、私のような人間はなんのこっちゃと首をかしげながらよくわからないままドイツ語のカタログを片手に授業登録をすることになります。
さて、ウィーンに来てまず冬セメスターに取ったのは、Hochbau1という部署の担当しているスタジオでした。
このTU Wienの部署の構造、始めはなかなか理解できなかったのですが、”建築”という学部の下に7個だか異なるDepartmentがあり、そのそれぞれが幾つかの部署を持っていてスタジオを開いている、という仕組みになっているのでした。つまりかなりややこしい。
タイトルは「タイポロジーから建築を考える」というもので、私のグループはおのおの「ブロック建築」について考えるというのが課題でした。ドイツと国境を接するスイス側の街Kreuzlingen(クロイツリンゲン)に敷地が与えられ、ドイツ側の街Konstantz(ブロックのタイポロジーでできている街)と、農村のストラクチャーののこるKreuzlingenの間をどううめるか?というのがテーマ。
まず最初に、10月頭の3泊4日の敷地&周辺建築へのエクスカーションからスタート。
皆で色々見学
授業登録の時点では週1回と書いてあったエスキスですが、いつのまにか基本週2回に。
個人プロジェクトだったのでなかなかキツく、途中までウィーンの学生めちゃくちゃ働くな!とびびっていましたが、クリスマス前にみんなが「こんなクレイジーな(働かせる)スタジオないわー」と言っているのをようやく知りました。
根っからの社畜体質なのか、知らない内に一番仕事量が要求されることで有名な部署のスタジオを選んでいたようです。
2回の中間講評を経て、
1月の終わりに最終発表。
展示は真ん中2枚
発表のときはこんな感じ
最終図面
最終成果物もなかなか多く、A0が5枚に、模型3つ(建物模型1/500、住戸模型1/50、石膏ファサード部分模型1/50)を1人で仕上げるという手の遅い私には相当きつい要求でした。石膏模型はもうあんまり作りたくないです。ドイツのヴァイマールから1セメスターだけ来ていた友人の大学では毎回石膏模型が必須だそうで、今回も必要だろうと、自前のヒートカッターをわざわざウィーンまで持ってきていました。いろんな大学がありますね。ちなみにTU Wienでは石膏模型はめったに造らないそうです。
石膏模型。コツが有るんですね、ボロボロになりました。
いくつか印象に残ったのは、まず学生がなんだかんだみんな優秀ということ。作っているものがおもしろいかどうかは別にしても、手が早いし、中途半端に完成した図面をエスキスに持ってくるということがまずありませんでした。学部初期から仕事量の要求される課題でふるいにかけられた学生が残っているからでしょう。
また、設計したものを「どう見せるか」についても相当な時間をかけてエスキスがあって、レイアウトはもちろん、パースの色味や表現方法についてもアドバイスがあったのが印象的でした。
あとは、図書館に英語の詳細断面がなくてお手上げ状態だったので日本の図面を参考にして壁の詳細断面を仕上げて行ったら、「断熱材薄すぎ!さすが日本だね。18センチは入れないと」と友人と先生に笑われたとか、住戸を収めていったら「なんでトイレとバスタブが別の部屋なの?」とつっこまれたりしたのも、妙な感動を覚えた思い出です。
私の取ったスタジオのHochbau1は”スイスかぶれ”がカラーのようですが、他の部署もそれぞれ特色があって色々な場所でいろんなことをテーマにスタジオを設定しています。もちろん競争率はものによってはとても高いのですが、自分でたくさんの選択肢から興味のあることにしぼってじっくり時間をかけて設計に取り組めるので、より「自分は何に興味があるのか?」ということについて考える機会が多く、建築家として活動するための方向付けをするためにもとてもよいシステムだと感じました。
今期選んだスタジオは、自分たちでオーストリアとスロヴェニアの国境にある田舎町に、ささやかながら何か実際に作りに行くというもので、全く違う方向性と、大人数で協働するという難しさが面白いです。あんまり先生側も具体的なことを決めずに始めちゃったようで、私が想像していたものとは違うワークショップになりそうですが・・・6月末に完成予定なので、また報告できるものができるようにみんなでがんばろうと思います。かしこ。
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